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 日本人がハマる米国の銀行のしくみ
 ―― (2)びっくりするほど原始的!?米国 ATM と小切手文化

日本とちがい米国では、日常的に小切手「Check」が使用されていることはご存知の方も多いでしょう。奥様方が小切手帳をもってスーパーで買い物をするなんていうことは、ごくふつうのことです。
それでは、キャッシュではなく小切手文化であることからくる、日本人には理解しがたい仕組み、そして日本特有とも思える銀行の戦略について触れていきましょう。
まずは、「ATM は現金を識別できない」という驚きの事実から。

ドル紙幣の識別技術がないということではなく、ATM にその機能を持たせていないということです。米国の銀行の ATM は一般的に、現金が投入されることを想定していません。もちろん CD (Cash Dispenser) は機械の操作者に現金を払い出す装置ですのでドル紙幣を区別しています。

 

 現金を識別できない米国の ATM

日本では、金融機関はもちろん駅やコンビニなどいろんな場所に ATM が設置されており、ほぼいつでも自分の預金口座から現金を引き出したり、自分の口座から別の口座へ送金することが可能です。それだけでなく、現金を ATM に入れて自分の口座に入金することや、指定する口座へ現金による送金をすることも可能です。そしてこれらの入出金や振込処理の「瞬間」、オンラインでデータは処理され、自分の預金口座はきちんと増減するわけです。

ところが、現金をほとんど利用しない米国の場合、ATM はここまで高度なシステムとはなっていません。
日本の ATM では、あたりまえですが1万円札と千円札の区別はつきます。つまり現金をキチンと識別する能力を ATM は持っているわけです。しかし、驚かれるかもしれませんが、米国の ATM は現金を挿入されても、それが現金であるかどうかすら識別できないのです。

 

 米国 ATM における現金入金

実際はあまりないことですが、どうしても米ドル現金を ATM で入金したいという場合、現金をたとえば $300、必要事項を記入した専用封筒に入れます。ATM にこの封筒を挿入し、自分の口座番号、入金額である $300 をボタンで入力します。

しかし、このままでは実際の預金残高は変化していません。なぜなら、ATM の向こう側には大きな箱が置いてあって、そこに先ほど挿入した現金入り封筒が、ドサッと落ちているだけだからです。
たしかに、ATM で現金入り封筒を挿入した際、レシート状の紙は出てくるのですが、これはあくまで処理の希望を受け付けたというものであって、$300 を受け取ったという証明ではありません。
ドサッと落ちた現金入り封筒は、銀行の担当者がやってくるまで、つまり場合によっては翌営業日までそのままです。もちろんこの $300 ぶんに関しては、デビットカードでの利用や、他の ATM での引き出しはできません。まだ正式に入金処理されていないためです。

さて、担当者がやってきてどうするかというと、$300 の現金を入金したという ATM の記録と封筒の記入事項、封筒の中の現金を実際に突き合わせます。間違いがないとなれば、担当者の手入力によってようやく預金口座に $300 が入金となるわけです。 時間的には通常、ATM 投入日の翌営業日に Available な残高となります。

つまり、米国の ATM は日本のように現金を読み取っているわけではなく、また入金処理についてはオンライン経由でリアルタイムに元帳データ(銀行の預金データベース)を更新しているわけではないのです。

 

 小切手の処理はどうなのか

では、小切手の処理は実際にどういうものなのか。
先に述べたように、米国では小切手による支払いが圧倒的に多い(1日約2億7000万枚)ため、この部分のしくみを理解しておく必要があります。

日本ではお金持ちや法人でない限り、小切手帳を持って歩いたり、小切手で支払いをするなどということはまずありません。またご存知のように小切手を使うためには、銀行に当座預金の口座を開設しておく必要があります。

さて $1,200 と書かれた Check をあなたが受け取ったとしましょう。あなたはもちろん、これを自分の口座がある銀行へ持ち込みます。これによって $1,200 を現金化したり、自分の預金口座に入金したりするためです。しかし、小切手そのものは単なる紙切れです。本当にお金の価値があるかどうかは、小切手を書いた(振り出した)人の口座に、額面以上の残高があるかどうかを確かめてからでなくてはわかりません。

Check を受け取った銀行は、この Check をメール便で、決済サービス銀行を経由して振出人の銀行へ送ります。この時に支払い余力があれば、問題なく Check の受取人であるあなたの口座に $1,200 が「ほんとうに入金」されます。
「ほんとうに入金」というのは、Check が持ち込まれた際には、いちおう残高は +$1,200 になるのですが、その $1,200 については利用できない状態、Available でない残高として受け付けられるという意味です。決済には日数がかかるわけですから、Check を受け取ったからといって、すぐに使えるお金というわけではありません。
つまり、銀行に持ち込まれた Check に関して、瞬時に振出人の支払い余力を確認することができないのです。

「いや、お店で小切手を使って支払った時、オンラインで確認されたよ」とおっしゃる方もいるかもしれません。しかしこれは、そのお店が「取りっぱぐれ」がないようにするひとつの防衛手段で、小切手を振り出した人の残高照会などではなく、これまでの使用履歴を確認しているのです。振出人の小切手の使用パターンを確認し、いつも利用しているスーパーで使っているとかの情報を得て、お店側がその小切手を信用するかどうかの参考にしているのです。テレ・チェックといいます。
(→ TeleCheck

それでは、もしあなたが受け取った Check が不渡りだったらどうなるのか。ここも日本人には理解しがたい仕組みが存在するのです。

 

 不渡り Check の手数料は受取人が支払う!?

受け取った Check の振出人に支払い余力がない場合、「仮入金」の状態となっていた +$1,200 は取り消しになります。つまり不渡りですね。
これだけでもじゅうぶんガッカリしますが、さらに追い打ちをかけるように NSF (Non Sufficient Funds) という手数料が銀行から取り立てられます。Check を取り扱ったことに対する手数料というわけです。
Check の振出人は支払い余力がなくて不渡りとなっているわけですから、NSF を受取人から取り立てることもめずらしくありません。この NSF、最高で $75 ほどといいますから、決して安いものではありません。

受け取った Check は不渡りだわ、手数料は取り立てられるわで、踏んだり蹴ったりです。こんな場合、銀行は何もしてくれるわけではなく、まさに自己責任。自分で先方と掛け合って回収するか、そもそも相手の信用力を見定める能力がなかったことが原因とされてしまいます。「花ぷら9」でも触れましたが、問題が起きた時は、その時、その当事者同士で解決するという米国の原則、生活感覚がここにも表れてきているようです。

日本人は収入の何割かを貯金し、イザという時のために備えるという習慣を当然のように考えています。そして支払い能力がないと決めつけられること、たとえば家賃や公共料金が払えなかったり、クレジットカード決済ができなかったりすることを「恥」とする文化があります。
しかし、米国の一般庶民にはそのような感覚あまりなく、得た収入はありったけ使ってしまうところがあります。つまり、支払い余力もないのに Check を振り出してしまうことは、日本ほどめずらしいことではないということになります。

米国と違って日本社会には、失敗した場合の再チャレンジの機会がない、という議論を時々耳にします。これは、いま述べてきたようなお金に対する感覚の違いも関係しているのかもしれません。もっと突き詰めれば、懺悔をすればリセット OK な宗教思想も根底で関係しているのかもしれません。

 

 日本の銀行に特有の戦略 ―― 筆者雑感

さて、ATM の日米比較でわかったように、日本の ATM やそのネットワークは非常に素晴らしいものです。日本国内のどこへ行っても、オンラインで結ばれている限り、通常の生活で必要となる金融機関との取引は、たいてい問題なく行えます。
(→ MICS / 全国銀行協会

しかしよく考えてみると、このような大規模で素晴らしい情報システムの構築と維持(短期間で必要になるソフトウェア改修、ハードウェアリプレース、さらには銀行の合併などによるシステム統合など)には、莫大なコストも必要になるであろうことは容易に想像がつきます。
一方で、ATM を利用して取引をするほとんどの預金者は、日本の銀行が「預金1千万円以下はゴミ」と呼ぶらしい、収益対象としては問題外の存在です。
それではなぜ、「ゴミ」と呼んでいる預金者たちの利便性のために、これほど莫大なコストを投下するのか。答えは、定期預金と住宅ローンを獲得するためのエサ撒きということのようです。

日本の個人の大部分は、会社に勤務し月収をおもな収入源として生活しています。そして、マイ・ホームを持つことこそが、人生の重大な目標であると意識づけられています。するとどうなるか。若い時からなじみにしている、給与振込口座に使用している銀行で、定期預金を開設し、住宅ローンを組み、資金を借りることになるわけです。ここで、銀行はしっかり回収を行っていると考えられます。

銀行にとって個人向けの商品は、手間やコストばかりかかり、たいして儲からない分野のようです。そこで、個人から預かった定期預金を再投資して利益を確保したり(再投資による儲けの一部だけを預金者の利息支払いに充てて利ザヤを抜く)、住宅ローンという大きな商品を獲得することによって、収益を確保しているというわけです。

日米いずれの状況を考えてみても、私たち日本人は、いま少し経済や金融の仕組み(からくり)を勉強しなければ、自分や家族の大切なお金を、金融機関のもうけのために使われてしまうことになりかねません。
お金は人生の幸せに直結しています。しかし残念ながら現在の日本の義務教育では、金融・経済に関するきちんとした課程がなく、社会人の多くも知識や経験がないのが実情ではないでしょうか。自分と家族の幸せを考えるのであれば、「○日で○万円儲かる!」といったマヌケな本を読んだりするのではなく、きちんとした学習をするべきなのではないかと、筆者は感じています。

 


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