もう飛行機は離陸へ向けて滑走路を加速し始めている。
「言って聞かせる」間などない。
CA は半ば取り上げるように、携帯電話の乗客に厳しく注意を促した。

「クリティカル イレブン ミニッツ」。
飛行機は、離陸と着陸の時がもっとも不安定であり、航空機事故のほとんどが、この11分間に集中している。操縦席も緊張している時間だ。

ウォークマンなどですら禁止されているこのタイミングで、積極的に電波を発信する携帯電話(無線電話機)を使用するというのは、論外であり、ほとんど犯罪だ 。「ケータイ」は電源が入っている限り、自分の位置を知らせる電波を出し続けている。

携帯電話や電子機器の使用が、具体的にどの程度、航空機の安全運航に影響するのかは議論がある。しかし、そんな議論以前に、
「安全を脅かすどんな小さな可能性をもつぶしていく」、というのが航空機の安全運航の歴史であり、空にかかわる人たちのプライドでもあるのだ。


NQ 1052 便は離陸。その後も順調に上昇をつづける。
指示高度まで上がって水平飛行になったのか、ベルトサインが消える。
すぐに、アメリカ入国時に必要な書類が配られる。

「米国入出国記録カード」には、米国に到着する際の、飛行機のフライトナンバーを記入する欄がある(詳細)。いま乗っている飛行機は、全日空の子会社であるエアジャパンのフライトだから、「NQ1052」と記入することになる。機内放送でも NQ と記入するようアナウンスしている。
しかし、配られたカードにはすでに、全日空をあらわす「NH」の文字が印刷済みだ。「在庫」のカードを未だに利用しているわけだ。 「NH」を二本線で抹消し、そのうえに NQ と記入する

ハワイ旅行が初めての海外旅行、初めての飛行機体験という人も少なくない。しかしこのような書類は、初心者には決して簡単なものではない。
エコロジーなのかも知れないが、ANA グループらしからぬサービスだ。


飛行機が少し揺れだした。飲み物のサービスカートも急いでバックし、ギャレーに引っ込んだ。CA も着席する。化粧室も使用してはいけない。
しかし10分とたたないうちに、いつものように静かな飛行に戻った。

運転免許の筆記試験問題集を取り出し、少し復習する。
今回は、ハワイで運転免許試験にチャレンジするつもりなのだが、あらかじめ免許取得サポートをしてくれる業者から、問題集を送ってもらっていたのだ。

PC に録音しておいた、葉加瀬太郎の「ANOTHER SKY」をヘッドフォンで聞きながら問題集をやっていると、うまい具合に?眠くなってきた。
スコッチ オン ザ ロックをもらい、機内泊だ。

* ハワイでの運転免許取得につきましては、こちらをご覧ください
*

「ANOTHER SKY」 : 葉加瀬太郎が、ANA GROUP CORPORATE IMAGE SOUND として作曲。ANA グループの機内で搭乗時や降機時に流れる。ヘッドフォンでチャンネルを選択して聞くこともできるほか、機内販売限定の CD もある。 用もないのに飛行機に乗りたくなる曲だ。JAL はフランク・プゥルセル楽団の「ミスター・ロンリー」(ボビー・ヴィントン)、ANA は葉加瀬太郎の「アナザー・スカイ」というところか。


夜勤明けの勢いが残っていたせいか、強めの酒を飲んでも、シッカリとは眠れなかった。窓の外は明るく、いや眩しくなっている。
決してよく眠れたわけではないが、ハワイ初日は何とか頑張って日中を過ごさないと、その後の日程が時差ボケで困ってしまう場合がある。

眩しい風景を見るようにして、「さぁ、朝だ」と自分にいい聞かせる。CA は朝の軽食を配り始めている。

食後くつろいでいると、またもやマナー、いやルールを守れない乗客がいるようだ。
機内にいつもと違ったアラーム音が鳴る。いつもと違うランプが点いている。そして化粧室のドア上のランプが点いている。 操縦席では「SMOKE LAVATORY」と表示されて一瞬、緊張が走っているだろう。
煙感知器が作動したようだ。CA がドアの外から、タバコを消すよう注意している。素直に出てきたのは、70歳くらいの年配の男性だった。

機内喫煙は迷惑行為というよりも、乾燥した空気で与圧されている「風船状態」の機内では、重大な危険行為だ。 まして化粧室内は燃えやすいものばかりだ。禁煙パイポを売店で買っておいてほしかった。


シートベルトサインが点き、飛行機はすこしづつ高度を下げていく。何人かの赤ちゃんが泣き出す。気のせいか、いつもと進入経路が違うようだ。

ホノルル空港や、ヒッカム空軍基地を左に見下ろしながら、そのまま通り過ぎたかと思うと、ダイヤモンドヘッドの先で U ターンするように、2度左旋回。
今度はワイキキビーチを右に見下ろしながら、ホノルル国際空港の 26L 滑走路に着陸した。

この滑走路は、ターミナルビルから離れた、海に突き出たところにある。そのため着陸時は、まるで波打ちぎわに着陸するかのような感じになる。地図でも
「Reef Runway」、と表記されていたりする。

機内放送では、制限区域を通過してターミナルビルに移動するので、機外の風景を撮影してはいけない、と言っている。 26L 滑走路からターミナルビルへ向かうには、ヒッカム空軍基地内を通っていくことになる。その区間で機外の様子を撮影することは、 スパイ行為のようなもので、観光どころではなくなる結果を招く。ハワイは観光の島であると同時に、米軍の重要な軍事基地であることを再認識する。

ターミナルビルの、セントラルコンコースのスポットに着いたところで写真を一枚撮る。すると、飛行機が少しバックして、停止位置をなおした。
時計は 8:55 くらいだ。

飛行機がバックしたのではなく、トーイングトラクタが飛行機を押したのである。

ボーディングブリッジを渡って空港ビル2階に入ったかと思うと、すぐに1階に降り、外へ出て WIKI WIKI バスに乗る。「こんな服、着ている場合じゃない」というほど暑い。
バスは滑走路の方へ突き出たセントラルコンコースをぐるりと回るように走り、反対側まで移動して乗客を降ろす。空港ビルに入ると、外とはうって変わって涼しい。


細長い体育館ぐらいの広さの入国審査場に入り、まずはトイレへ。
個室の内側には、上着などを掛けるフックしかないので、重たいリュックは床に置くしかない。床から 50cm くらいがあいた個室だ。トイレを出ると、9:20 だ。

入国審査場は大きく1〜4の待ち行列があり、1〜46番の審査ブースへ進むようになっている。その右、端の方の47〜53番のブースは、「United States Citizen (アメリカ人)」、「Crew (乗務員)」と表示してある。なぜか、私はその「United States Citizen 」のブースへ誘導される。

48番ブースは、眼鏡を掛けた女性審査官だ。あちゃー。
私の経験でもそうだし、ハワイ好きの知人に聞いても同じことをいうが、女性審査官は何かと「ウルサイ」。蛍光増白剤を使ったようなシャツで左利きの彼女は、「なんで一人なの?」とか、「こっちに友人でもいるの?」、「日本での仕事は?」などと聞いてくる。 ようやく、「ったく、仕方がないわね」とでもいうように、スタンプを押される。


審査ブースを通過したところに、アメリカ合衆国第43代大統領 George W. Bush の写真額や星条旗があるので、近づいてしげしげと見てみる。
一緒に掲げてある絵は、ワールド トレード センター ビルの絵だ。しかし、飛行機が突っ込んでいる絵ではない。今春ここに来たときの絵と差し替えたのだろうか。それとも私の記憶違いだろうか。それにしてもやはり、「We Will Never Forget」と書いてある。

1階に下りて、預けてあったダンボールを取り、税関を抜けて
「2 EXIT / Street Exit / Ground Transportation」と表示された、いわゆる個人旅行者用出口を出る。団体は「1 EXIT / Group Tours」から出る。
時刻は9:50。着陸から約1時間経っている。T シャツ1枚で十分な天気だ。