花ぷら12(2010/8)
じつは、今回の旅程の多くを共にすることになるU氏ファミリーは、1日早くハワイへ向けて出発している。彼らはハワイは初めてだが、海外旅行が初めてというわけではないので、それほど心配はしていない。いまハワイは「今日の」午前1時ごろだ。初日の疲れで部屋で寝てしまっているか、それともまだ部屋で一杯やっているだろうか。
出発階まで移動し、ずらりとならんだ JAL のチェックインカウンタへ進む。案内板を見ると、ほとんどどの島のカウンタでも搭乗便の受付をしているようだ。ロビーの隅で、機内に持ち込むショルダーバッグと、ここで預けてしまうスーツケースの中身を点検する。
自動チェックイン機にパスポートをかざし、手続きを進める。シートマップを表示して、通路側を指定すると、しばらくして搭乗券が出力される。預ける荷物がなければこれで先へ進めばよいのだが、スーツケースがあるのであらためて有人カウンタへ移動する。あ、初めからこっちに来ていればよかったかな。
私の前にチェックインをしている家族は、なんだかやたらと荷物が多い。ウクレレかヴァイオリンか、何か楽器のケースもいくつか持っている。荷物についてどうやらカウンタの職員に何か言われたようで、後ろに多くの人が並んでいる状況で「荷物詰め替え大会」を始めた。あいやー。
その間、ふとあたりを見ると、太めの毛筆フォントで「清真」と書いたステッカーを、スーツケースに貼った若者の一団が溜まっている。こりゃ下手なベルトやステッカーよりも、よっぽど到着空港で目立つ。茨城県の私立学校のようである。
早めに出国手続きをしてしまおう。
ショルダーバッグに入っている2枚のノート PC を外に出し、ズボンのベルトを外したりしてセキュリティチェックを通過する。
エスカレータを降りて出国審査のカウンタへ行くと、本来なら一人づつブースに入っていかねばならないところ、5~6人で職員に詰め寄っているようなグループがいる。なにかあったのだろうか。
出国手続きといっても、ほとんどの人にとっては、パスポートにスタンプを押すだけのことだ。通過するとすぐ小さめのカートが置いてあるので早速利用する。軽量タイプとはいえノート PC 2枚とその他の荷物はけっこう重い。
搭乗開始までには十分時間があるので、カートを押しながらぶらぶらと見物したり、軽く食事をしたりする。
そろそろゲート前に移動しようか。61番ゲートに向かうと、液晶画面の案内が出ている。最近設置したのだろうか。
ずらりと並べられた椅子に座って搭乗開始を待っていると、恒例の呼び出しが始まる。理由はいろいろだが、搭乗直前に航空会社から乗客に伝えることがある場合、ゲートのカウンタに呼び出すのである。小さい子ども連れに対する連絡であったり、座席の配置が急きょ変更になったりという場合もあるし、ラッキーな時は無料で上位クラスのシートへアサインしてもらえる場合もある。この呼び出しの際、フルネームでコールされる。
あれ?、聞いた名前だな。いや勤務先の同僚の名前だ。よくある名前ではないので、かなり高い確率で同僚に違いない。机を並べて島を作るという典型的な日本型オフィスの、隣の島に座っている人だ。
なんだかんだいってもハワイは日本人にとって親しみのある場所であるし、だいたい休暇を取るパターンも重なる日本企業の場合は、こんなこともめずらしくない。
窓の外を見ると、これから乗る B747-400 型機(登録記号JA8085)、通称ジャンボが搭乗客を迎え入れる準備をしている。かつて世界中の多くの航空会社に納入された、ボーイング社を代表する大型旅客機だ。それまで3人の運航乗務員が必要だった B747 シリーズにおいて、この「ダッシュ400」で初めて、機長と副操縦士の2名体制で運航できるようになった。
高度に電子化された操縦システム、そして燃料効率もふくめた経済性は、多くの航空会社に認められていた。しかしそれがいま「燃料食い」の厄介者となっているのである。これは単に、燃料消費に関係する諸々の技術が向上したというだけでなく、航空需要のありかたが、かつての時代と様変わりしているということもある。
主翼の下では、高所作業車を使って整備係の男性が数人、なにやら作業をしている。しばらく準備作業を見ていると、なんだか歴史を作ってきた大先輩の晩年を見るような気持になる。
過去の栄光は尊重されるべきだが、それをむやみに後の時代に引きずってしまうと、かえってその価値を帳消しにさせるばかりでなく、新しい時代を切り開くときの障害にすらなってしまうのかもしれない。人も機械も社会環境も、じつはすべて「生きて」おり、時は流れ続け、万物は流転していると考えるならば、妙なこだわりや固定観念、ノスタルジィで現実を語るのは、宇宙生命といったダイナミズムから見下ろせば、まことに悲しい抗(あらが)いということになるような気もする。
いつも通り滑走路までの長いタキシング(地上走行)の後、やや重々しく、B-747 型機は離陸した。
私はエコノミークラスの 56H 通路側に座っている。私の左手が通路で、右側2席が窓側席だが、どうやら新婚旅行っぽい雰囲気だ。新婚2名と拙者で3人座席。これもよくあるパターン。
エコノミークラスではあるが、簡単な機内用スリッパがシートポケットに準備されている。
今回は機内食をパスして、飲み物とあられのようなお菓子のみにする。少しだけウトウトしたかもしれないが、ほとんど寝てはいない。しかし機内食を食べないことによってか、疲れ方がいつもとは違う。いつもほど疲れを感じない。
ハワイに近づいて機外が明るくなる頃、乗客に配られたのは「袋」である。いったいなんだろうと思って開けてみると、ベーグルとペットボトルの水である。つまりこの袋が、朝の「糧秣(りょうまつ)」というわけである。しかしこの小さな袋でさえ、客室乗務員から受け取ると、置いておく場所がないのがエコノミークラスである。つまり、全体の流れに従って、時間になったら食事をとり、飲み物を飲む、ということになるのである。
このいわば全体主義的飲食が、エコノミークラスの狭い空間で、しかも夜間飛行中に行われるのが、ハワイ行の便の特徴でもある。これが原因で体調を崩す人があってもおかしくない気がする。間もなく就航することになる羽田からのホノルル直行便では、さらに遅い時刻に日本を出発することになるらしいが、機内サービスや夜間飛行の感じ方はどんなものになるのであろう。
ちなみにビジネスクラス(日本航空ではエグゼクティブクラスと呼ぶ)では、食事の内容が別格であるだけでなく、時間的に余裕をもった機内サービスが提供されている。
【糧秣(りょうまつ)】
軍事用語で、兵士の食糧と軍馬のえさ、すなわち「まぐさ(秣)」のことをいう。騎兵隊がいたころの軍隊で使われた言葉である。近代の軍隊では重量物の運搬に馬を使用しないため、この言葉は使われない。英語で ration(ラション)というらしいが、食糧や燃料などの「一定量の配給」という意味もあるらしい。
結局ほとんど眠らないまま、機はホノルル空港の 8L 滑走路に降り、25 番スポットにつけられた。しかし、体調はいつになく快調なのである。








