花ぷら11.5(2010/2)
よくは覚えていないが、会社で仕事をしている夢から覚めると、周囲の乗客たちも起きだしたようで、会話したりガイドブックに目を通したりしている。
私は未だぼんやりと、見ていた夢を反芻(はんすう)するような気分で目を閉じていた。着陸へ向けての降下を始めるという放送が聞こえたが、そのまま夢うつつでいると、ドドンと機体が揺れる。あら、もう着陸?そんなほどあっけなくホノルルに到着したように感じる。地上走行したあと飛行機が停止した位置は、ホノルル空港国際線ビルの、ほぼ中央のスポットだ。なかなか JAL らしいではないか。
空港のスポットは、その空港に対してより多くのお金(着陸料などの空港の設備や支援に対する利用料)を払っているエアラインを優先して、中央ビルに近い位置を割り当てていくようだ。そもそも空港ビジネスというものは基本的に、航空会社などに離着陸させてやってナンボである。たくさん発着してくれて、客もたくさん流れてテナントにも金が落ちれば、その航空会社はお得意様ということになるわけだ。
いつもの、ウィキウィキバスに乗ることなく、徒歩とエスカレータで入国審査場へ向かう。
入国審査場のブースでは、母と一緒に入る。指紋スキャンについては、私のほうは右手の人差指から小指までを一度にスキャンしただけだ。10本すべてではない。母にいたっては指紋スキャンや顔写真撮影は行われなかった。高齢者だからということだろうか。
なんだか飛行機を降りる前から、無性にのどが渇いていた。チップやジャンクフードに必要な低額の紙幣がないこともあり、2階にあるジュース売り場へ行って飲み物を買おう。私はコーク、母にはやっぱり伊藤園の「お~いお茶」である。予想はしていたがハワイで、しかもホノルル空港で 500ml (16オンスと表示)入りペットボトルのお茶を買うということは、かなりの出費になる。なんと 400 円ほどもするのである。街中の ABC ストアでも、日本製の緑茶は飛びぬけて高価格である。それでも売れるのだ。まぁ確かに、「ARIZONA(アリゾナ)」という、蜂蜜入りの緑茶を買おうとは思わないが。
【フラッグキャリア】
JAL の倒産で一般にもよく知られるようになった「ナショナル・フラッグ・キャリア」は、その国を代表するエアラインのことである。日本以外ではオーストラリアのカンタス航空、シンガポールのシンガポール航空、イギリスのブリティッシュ・エアウェイズ、フランスのエールフランス、ドイツのルフトハンザ・ドイツ航空などがある。
しかし、このフラッグ・キャリアは「ダメ」になっている例が少なくない。航空会社はカネがかかる事業でもあり、海外と結ぶ交通手段でもあるため、その国の国策として設立・運営されることがめずらしくない時代があった。しかし今や LLC ( Low Cost Carrior ) が気を吐く時代だ。飛行機は昔ほど特別で非日常的な乗り物ではなくなってきたということかもしれない。
二週に一度、筆者の英会話をみてもらっているオーストラリア出身の女性教師は、カンタス航空の 100% 子会社であるローコストキャリア、ジェットスターで里帰りしている。機内食なしのいちばん安いチケットを買い、コンビニのおにぎりをぶら下げて搭乗するのだそうだ。しかし隣の席に「食事つき」の客がいて、温かい料理を食べているのを見ると、やはりツライと話している。でもかなり安く帰れるのでやっぱり「食事なし」がいいのだそうだ。
いつものクセで個人旅行者用出口から外へ出てしまったが、迎えの車が来ているのは団体旅行者出口のほうだ。しかしすぐそばなので、どうということはない。エイチ・アイ・エスの看板を見つけて、旅程表などを見せると、もう腰が曲がり始めた高齢の小さな女性が、鮮やかなスタッフのシャツを着て案内してくれる。なんだか日本の温泉旅館に迎えられているような気分だ。
「迎えの車」とは、今回のパッケージツアーの基本部分に織り込まれているもので、到着日と帰国日における空港送迎サービスである。そしてこれが、いわゆる「リモ」、つまり「超長リムジン」なのである。
一般にはハワイで結婚式を挙げるような日本人カップルか、バブリーなテレビ番組で芸能人が乗るような超長リムジンだが、いまではそれほど「雲の上」的な雰囲気はない。考えてみれば、あれほど風変わりな自動車を作ってしまった商売人としては、ローン返済計画の練り直しに必死のはずだ。状況に合わせて値段をディスカウントするしかないだろう。
この超長リムジンが示すように、このところの世界的な景気低迷で、これまで高級で手が届かなかったものが、比較的リーズナブルに手に入ったり、体験できる場合も少なくないのである。
生まれて初めて超長リムジンに乗る。
正確にいえば2度目だが、1回目はワイキキのリーズナブルなホテルで呼んでもらったタクシーが、「いちおう超長リムジン」だったということはある。いやしかし、新婚旅行などではなく、母親と乗っているということが、いささか考えさせられたりはする。
キャビンの一番後ろは、2名がゆったり座れる通常の後部シート、ストレッチされた中間部分は横に向いたソファと運転席に背を向ける配置のソファが、ゆるやかな曲線でつながっている。そこに母親が、まさに所在なげに座っている様子が滑稽にも見える。
超長リムジンに時々ある装飾なのか、室内の天井が色とりどりに光る星空のように加工されている。そこだけ見ているとハワイというより、ちょっと香港や中国のような気もしなくはない。バーにはグラスは並んでいるが、酒や飲み物はない。まぁ、送迎のみのサービスだからだろう。さっき空港で買った飲み物を置く。
30分ほどでヒルトン・ワイキキ・ビレッジの、団体客送迎用につくられた駐車場に到着する。大型のツアーバスなども発着するところで、ここからはスーツケースをガラガラと引きずりながらチェックインロビーまで歩かねばならない。ゆっくり歩いて3~4分というところか。せっかく超長リムジンでホテルに到着したというのに、一人のドアマンにも、ベルボーイにも迎えられるわけではなく、このギャップには少々悲しくなる。
ただまぁ、ヒルトンのメイン・エントランスで我々が降ろされても、かえって居心地の悪いことになるかもしれない。やはり高級ホテルの正面に超長リムジンがとまったなら、見るからに上流階級といった雰囲気の紳士淑女か、せめて結婚式の衣装を身にまとった新郎新婦であってほしい。またそうでないと、ホテルの格式にもかかわるというものだ。
ヒルトン・ワイキキ・ビレッジはその名の通り、複数の客室棟を擁する広い敷地がひろがっており、ホテルゲストでなくとも立ち入れるところが多い。南国の植物や花々が植えられた庭、水鳥や鯉などがいる池、小鳥が遊ぶ芝地や木々、白いチャペル、「ヒルトン・ラグーン」あるいは「デューク・カハナモク・ラグーン」と呼ばれる砂浜のある美しい池、早朝散歩やジョギングにもってこいのボードウォークなど、心豊かにさせられる作りになっている。
敢えて難点を挙げるとするならば、ワイキキの繁華街からやや離れていることぐらいだろうか。歩いて行くにはちょっと離れているし、かといってタクシーやバスというのもなんだか...。という感じの、これまた微妙な離れ具合なのである。
チェックインカウンターがあるメインロビーは、ハワイのホテルらしく風がよく通る気持ちのよいオープンな雰囲気のロビーだ。カウンターには担当者とシステム端末がズラリと並び、あいた順に一列で待っている客が進んでいくようになっている。また「ヒルトン H オーナーズ」と呼ばれる会員向けの優先窓口もある。
手続きするとすぐに部屋のカードキーや、朝食のクーポンなどを渡してくれる。








