花ぷら11(2009/8)
ホノルル空港はいつもの通り、というか相変わらずな様子だ。唯一変わったところといえば、旅行客が目に見えて少ないことだ。まだ8月の第一週だとはいえ、やはり空港内の旅客が少ないことは素人目にもわかる。日本人旅行客が少なくなっているのはもちろん、米本土からの旅行客も減っているからだ。
入国審査場があるメインターミナルビルに向かう連接バス「WIKI WIKI BUS(ウィキウィキ・バス)」も、十年一日のごとく、その古びた車体からブワーンと黒煙を吐きながら、乗客を運んでいる。数年前、ハイブリッド仕様の WIKI WIKI BUS が話題になったが、コストの問題であろう、すぐに導入拡大の話は消えてしまった。
その WIKI WIKI BUS を降りると、電車通勤の勢いが残っているかのような日本人たちは、入国審査場へ向かう下りエスカレータへ、条件反射的に足早になって向かっていく。まぁ、入国審査場での待ち時間が短いに越したことはないが、何かに追われているわけでもなし、のんびり行こうよ、のんびり。
私はほとんど最後の旅客となって入国審査場に入ったが、毎度の習いでトイレへ直行する。トイレの個室には、日本のように荷物を置ける台のようなところがない。ドアなどのフックに掛けるか、さもなければ床に置くしかない。もちろん個室の下のほうは開いているので、床の荷物を外から奪取されてしまう可能性を考えておくべきである。
入国審査ではいつものように顔写真の撮影や指紋のスキャニングが行われる。今回は、指紋用のスキャナが新しいタイプになっている。そして、両手のすべての指の指紋をとるようになっている。最初に親指以外の4本、次に親指。これを両方の手で行う。
ご存じのとおりこれは、2001年9月11日に起きた、アメリカ同時多発テロ事件に端を発する、米国土安全保障省の措置だ。犯罪者でもないのに指紋を採られるのは不愉快だという人もいるかもしれない。しかし日本政府も、同様なことを日本に入ってくる外国人に対して行っている。そういう時代であり、状況だということもしれない。
■入国審査場での写真撮影は禁じられています。一般の方は、カメラをカバンの外に出しているだけで注意を受けることがあります。
入国審査官が一瞬、怪訝な表情を見せる。
「こんな到着便があったかなぁ」
「のんびりトイレへ行ってたもんで、...」
「なるほど、オーケイ!」
入国してくる旅客はほぼ同一の時間帯に通過していくのに、私だけ遅れて審査ブースに入ったためだろう。
スーツケースを引き取り、税関を抜けて、個人旅行者用の出口から外に出る。ここだけは、旅行者や送迎の人々でにぎわっている。そんな少し騒然とした中で、通りのよい、ちょっと「アニメ声」の呼び声が聞こえてくる。ワイキキホテル街へ向かうシャトルバスの客引きだ。アジア系だろうか、長い黒髪の少女は、WAIKIKI SHUTTLE と大きく書かれた派手な黄色いゼッケンを着て、懸命に声をあげている。その素朴な販促活動は、なにか消費者意識をくすぐられるような気がする。
ワイキキ・シャトルは片道9ドル、往復チケットなら15ドル。20分おきに出ている。
日本から持ってきた Panasonic 製 NTT DoCoMo の携帯電話、P-04A の電源を入れる。電波サーチに1分ほどかかるが、第2世代方式の GSM 波をキャッチした。さらにそのあと、パケット通信のための GPRS も捕捉したことを示す表示が出る。現地の通信キャリアである AT&T の文字も表示されている。時計表示も、自動的にメイン表示がハワイ時間、サブ表示が日本に切り替わる。
このときは、「おお、さすが!」と思ったのだが、じつはそうでもないことが、このあとの数日間の滞在で判明することになる。
ハーツレンタカーのシャトルバスでレンタカーの事務所へ移動したが、いつもの事務所より少し離れた所に建つ、白い建物の前に案内される。ここでトヨタ社製 YARIS を借りる。カローラのちょい下クラスとなる Vitz (ヴィッツ)の海外版というところか。私が借りるのは4ドアセダンタイプだ。繁忙期のためかわからないが、同じ価格帯にしてはいつもより少々ぼろっちぃ感じもする。
日差しで熱くなった車内に、エアコンの風をめいっぱい吹き出させ、ワイキキホテル街へ向かう。
H氏はいまごろどうしているだろうか。ワイキキのハイアット・リージェンシー・ホテルで「現地説明会」に出ているだろうか。ハワイに先着して待っているH氏も不安だろう。
じつは彼と彼の父親と私の3人で、3泊5日のハワイ旅行をした経験がある。しかしそれもだいぶ前のことだ。
とにかく、ワイキキホテル街の中心にある JCB プラザで待っていてくれるよう、H氏に頼んである。
はたして、JCB プラザにH氏は待っていた。なんと1時間半ほど待ったということだ。ツアーの説明会が意外と短時間で終わったらしい。
無料サービスのコーヒで休憩させてもらったあと、H氏と TOYOTA YARIS でアラモアナ・ショッピング・センターへ向かう。 その道中、
「ノースウェスト航空だから困ったなぁと思ってたら、実際はデルタの運航だったので、ビールが無料でよかった!」
と話してくれる。ノースウェスト航空ではエコノミークラスでの酒類サービスが有料だという情報を得ていたからだろう。
ところがまたもや状況は変わっている。2009年6月10日からは、ビール、ワイン、日本酒が無料となっており、その他のアルコール類については 7US ドル、または700円ということになっている。
たしかに以前、私がノースウェストでハワイに向かった時、
ビール一杯 5US ドル、または500円だった記憶がある。
ノースウェスト航空は経営破たん後、2008年10月29日デルタ航空と合併した。しかしノースウェストのブランドやそのマイレージプログラム「ワールド・パークス」もそのまま続いている。ただでさえ出来事について忘れっぽく、体制のありようにも関心が薄い日本人にとってはよけいにわかりにくいわけだ。
そのノースウェスト航空も、いよいよ2010年1月から「デルタ航空」の統一ブランドとなる。これを控えて、件(くだん)の機内サービスについて、ひと足早くデルタと合わせ始めたのである。
【ノースウェストのビジネスクラス】
ビジネスクラスのサービスについても、デルタの「ビジネスエリート」に合わせ始めている。
→デルタ航空、ノースウエスト航空と国際線の機内サービスを統一
アラモアナ・ショッピング・センター海側の1階駐車場は日差しを避けてクルマをとめられるのだが、土曜日のせいか空いているところがない。しかたなく、燦々(さんさん)と日差しが降りそそぐ、上の駐車場へとめる。山側の立体駐車場に回ってもよかったが、めんどうくさい。
広い駐車場内を、セグウェイを改造したような乗り物に乗った警備員が、スムーズな平行移動で通り過ぎてゆく。
とにかく腹ごしらえをしようということになり、まっすぐにマカイ・フード・コートへ向かう。ここだけはいつも活気がある。土日が混むのは、地元の人も多い証拠だ。
それにしても、フードコートをぐるりと囲むたくさんの店は、どこも人がいて、中には行列ができている店もある。ここでの食事はセルフサービス方式なので、受け取った食事を、人込みを抜けて自分の席まで運ばねばならない。きょうのような混みようでは、店を選ぶというより席を確保するのが先だ。ようやく空いた席に座り、そのすぐそばにあるスパゲッティの店に決める。
写真のセットで 13.59 ドル、ざっと 1,400 円だ。つまり高い。その場の勢いで金を出してしまうのだが、こんなところで少しづつ、金は出ていく。一緒に頼んだ飲み物は 2.79 ドル。このような飲み物はレシート上では、その他扱いで「 MISC 」と表示されることもある。miscellaneous (ミサレイニアス)の略だ。
スパゲッティはけっこうウマイ。ホワイトソースにガーリックが効いた味で、小海老とロブスターがごろごろと乗っており、なかなかだ。しかし、そこに無造作に置かれているロールパン。ドサッと器に「入れた」サラダ。いやはや、「盛り付け」という概念はアメリカの食文化にはないのか。
食べ始めはけっこうおいしかったのだが、後半になって急に塩っぱくなってきた。H氏も同様の感想だ。ということはやはり、盛り付けメソッドの問題なのではないか。
ここでは「アイス・コーヒー」という和製英語が通じる。それで安易に頼んだのだが、ミルクもガムシロップもすでに混入されており、しかも日本人が知っているアイスコーヒーでは、まったくない。水で薄めた「コーヒー入り清涼飲料」とでもいう感じだ。昭和50年前後に特定の地域だけで流通していた飲み物を、お菓子屋で飲んだときのことを懐かしく思い出す味でもある。
腹も落ち着いたところで、二人でぶらぶら歩き出す。アラモアナ・ショッピング・センター内は、この世界同時不況下でも、新しい店がオープンしていて、少なくとも表面上は活気がある。ズラリと並ぶ一流ブランド店などは、その入り口から、店内の空調の冷気をガンガン店舗外に出しているという威勢のよさだ。おかげで通過していく我々は、その冷気を浴びながら歩くことができる。








